日常生活に潜む、あらゆる賠償リスクに備える「個人賠償特約」。自動車保険にも特約を付帯することが可能です。
とはいえ、個人賠償特約はさまざまな保険商品に付けられるため、
「どの契約に付けるべきなのか?」
「それぞれの保険で加入しておくべきなのか?」
など、仕組みについてよく理解していない人も多いかもしれません。
今回は、自動車保険に付帯可能な「個人賠償特約」について、補償内容や必要性、契約の際の注意点などを詳しく解説していきます。
個人賠償特約とは
個人賠償特約とは、日常生活で発生した事故で他人に損害を与えたことで損害賠償の支払い義務が生じた場合、補償を受けられる保険です。
各自治体での義務化が進んでいる「自転車保険」の対象となる特約としても知られています。
保険会社ごとに「個人賠償責任特約」「日常生活賠償特約」などと名称が異なりますが、基本的な補償内容はほとんど変わりありません。
「個人賠償保険」は、単体で契約できる商品がないため、自動車保険をはじめとした損害保険の契約に特約として付帯するのが一般的です。(※企業の団体保険など、一部単体契約可能な商品もあります)
日常の賠償リスクに幅広く備えるため、加入することをおすすめします。
平均的な保険金額は?
個人賠償特約の保険金額は、1億円、3億円、無制限のいずれかが一般的です。保険金額は自由に設定できるわけではなく、保険会社ごとに決められているケースが多く、それぞれ上限額が異なります。
個人賠償特約は他人に対して損害を賠償する責任が生じた場合に使用する保険です。
その時々によって賠償額は大きく異なりますが、損害賠償の支払い事例の中には1億円以上の支払いを命じられた事故も存在します。
特に自転車事故では高額賠償の事例も多いため、最低でも1億円以上の補償があると安心です。
自転車事故の高額賠償事例
判決認容額 | 事故の概要 |
9,521万円 | 男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となった。( 神戸地方裁判所、平成25(2013)年7月4日判決) |
9,330万円 | 男子高校生が夜間、イヤホンで音楽を聞きながら無灯火で自転車を運転中に、パトカーの追跡を受けて逃走し、職務質問中の警察官(25歳)と衝突。警察官は、頭蓋骨骨折等で約2か月後に死亡した。(高松高等裁判所、令和2(2020)年7月22日判決) |
9,266万円 | 男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突。男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失等)が残った。(東京地方裁判所、平成20(2008)年6月5日判決) |
※引用:一般社団法人 日本損害保険協会「自転車事故と保険」より
補償を使ったら等級はどうなる?

個人賠償特約の利用だけでは、自動車保険の等級に影響はしません。
等級ダウンによる翌年以降の保険料アップの心配がないので、数万円の損害賠償であっても損得を気にせずに補償を受けることができます。
個人賠償特約の補償範囲
ここでは個人賠償特約の補償範囲について解説します。
個人賠償特約の必要性を把握するうえで重要なポイントにもなるので、しっかりと押さえておきましょう。
補償の対象となる人
個人賠償特約は、1契約で家族全員補償が受けられるのが特徴です。
自動車保険では「運転者の範囲」として、補償の対象となる人をあらかじめ指定するのが一般的ですが、個人賠償特約は自動車保険で決めた補償範囲とは関係なく、家族全員が補償の対象になります。
具体的な補償の対象者は以下の通りです。
- 記名被保険者
- 記名被保険者の配偶者
- 記名被保険者または配偶者の同居の親族(同居の子含む)
- 記名被保険者または配偶者の別居の未婚の子
4の「別居の未婚の子」について、「一度結婚したが離婚したため、現在は未婚」といった子は当てはまらないため注意してください。別居の子どもに関しては、あくまでも婚姻歴のない人が対象です。
また保険における「親族」とは、一般的に「6親等内の血族および3親等以内の姻族」を指します。
例えば子どもが結婚している場合、別居していると補償の対象外になりますが、親と同居中であればそれぞれが補償範囲に含まれます。
補償の対象となるケース

個人賠償特約の補償対象となるシーンは幅広くありますが、主なシーンは大きく以下の2つに分けられます。
- 他人にケガを負わせた
- 他人(お店)のモノを壊した
上記2つのシーンから、日常生活において発生した事故で法律上の損害賠償責任が生じたとき、個人賠償特約の補償を使うことができます。
補償対象外となるケース
個人賠償特約では、他人にケガを負わせた場合と他人のモノに損害を与えた場合に補償が受けられます。例えば「名誉棄損」「プライバシー侵害」といった損害賠償は補償の対象外です。
他には、以下のようなケースが補償対象外にあたります。
- 契約者または被保険者の故意により生じた損害
- 地震、噴火またはこれらにより生じた津波に起因する損害
- 被保険者の同居の家族に対する損害賠償責任
- 被保険者の業務遂行に起因する損害賠償責任
- 業務の用に供される動産または不動産の所有、使用または管理に起因する損害賠償責任
- 被保険者の心神喪失に起因する損害賠償責任
- 航空機、船舶、車両または銃器の所有、使用または管理に起因する損害賠償責任
例えば「家族をケガさせた」など、過失により被保険者の家族に損害を与えてしまった場合、当然ではありますが個人賠償特約の補償対象にはなりません。
また「業務の用に供される動産~」について具体例を挙げると「業務に使用するため会社から貸し出されていたパソコンを誤って壊した」などが当てはまり、この場合も補償の対象外となります。
個人賠償特約の保険料
保険会社ごとに異なりますが、個人賠償特約を付帯することでになります。
月々200円程度の保険料で家族全員の賠償リスクに備えられるため、コスパの良い特約だといえるでしょう。
個人賠償特約が役立つのはこんなとき

個人賠償特約の利用シーンは「損害賠償責任を負ったとき」です。
とはいえ具体的にどのような場面なのか、思い浮かべづらいかもしれません。
ここでは実際に個人賠償特約の補償対象となる事故の事例を紹介します。
Case1.自転車事故により相手にケガを負わせた
個人賠償特約は、各自治体で加入の義務化が進んでいる「自転車保険」の対象にあたる保険です。自転車事故で相手にケガを負わせた場合は補償の対象となります。
また「事故の衝撃で相手の自転車も壊れてしまった」といった場合、自転車の損害も補償の対象です。
Case2.子どもが誤って隣家の窓ガラスを割ってしまった
個人賠償特約は「生計を共にする同居の家族」全員を補償の対象とするため、子どもが起こした事故であってもきちんと補償が受けられます。
他にも「子どもに犬の散歩を任せていたら、犬が歩行者に噛みついてしまいケガをさせてしまった」「子どもが友達に借りたゲーム機を壊してしまった(※)」といった場面も補償の対象です。
(※)「有償・無償問わず、他人から借りたモノ」の補償に関しては保険会社ごとに対応が異なります。詳細は契約前に各保険会社にお問い合わせください。
Case3.買い物中、未購入の商品を壊してしまった
例えば家電量販店にてサンプル商品を壊してしまった場合や、雑貨店で高価な商品を子どもが壊してしまった場合なども補償の対象となります。
同居の家族全員が補償範囲に含まれるため、幼い子どもが思いがけず起こした事故によって親に損害賠償責任が生じた場合にも、個人賠償特約が役に立ちます。
個人賠償特約は自動車保険に付けるべき?
個人賠償特約は原則として、すべての損害保険の契約に付帯できる特約です。
自動車保険以外にも、火災保険や傷害保険、ペット保険などに付帯できます。
個人賠償特約はどの保険に付けても補償内容にほとんど変わりはありません。
そのため「自動車保険の契約に付けるとよい」といったこともありませんが、自動車保険に特約を付けることで、毎年更新のたびに補償内容を再確認できるメリットが挙げられます。
火災保険や傷害保険は更新までの期間が長い契約が多く、一度加入したら特に見直しもせず自動更新するといったケースも多いでしょう。
いざというときに補償の存在を忘れている可能性も生じるため、定期的に補償内容を確認できる状態にしておくことをおすすめします。
個人賠償特約に加入する際の注意点

個人賠償特約は1契約あると日常の賠償リスクに備えられるため、未加入の人はぜひ加入を検討してほしい特約です。
しかし「特約」という性質上、加入する際に注意したいポイントがいくつかあります。
ここでは3つの注意点について解説します。
保険金額は十分か?
高額な賠償リスクに備えるため、個人賠償特約の保険金額は最低でも1億円は備えておきたいものです。中には「5,000万円」「1,000万円」のように保険金額が低く設定されている保険商品もあるため、十分な保険金額が備えられているか、契約前にしっかりと確認しましょう。
補償が重複していないか?
個人賠償特約はさまざまな損害保険契約に付帯できるため、補償が重複しやすい特約の1つでもあります。
補償内容をよく理解せずに、自動車保険・火災保険・傷害保険など、それぞれの契約に特約を付帯しているケースが多く見られます。
補償が重複していても、契約した分保険金が倍で受け取れるわけではないため、ムダな保険料を支払うだけです。また補償が重複していたとしても、保険会社側からの指摘は特にありません。
心当たりのある人は、いま一度ご自身が加入している保険の補償内容を確認してみましょう。
被保険者は誰か?
成人した子どもが同居している場合や、二世帯以上で同居している場合などは「記名被保険者は誰なのか?」に配慮して特約を付帯することをおすすめします。
被保険者によっては個人賠償特約の補償範囲が狭くなるケースや、気付いたら補償から外れているケースがあるため注意しましょう。
例えば同居中の子どもが契約している自動車保険に個人賠償特約を付帯する場合。
子どもと同居している間は親も個人賠償特約の補償対象となりますが、子どもが結婚して家を出ると、その途端に親は補償範囲から外れてしまうといったケースが考えられます。
まとめ:個人賠償特約で日常の賠償リスクに備えよう
個人賠償特約は、1つ契約しておくだけで家族全員の日常生活における賠償リスクに備えられる保険です。中には高額賠償の事例もあるため、最低でも1億円以上の保険を備えるとよいでしょう。
必ずしも“自動車保険に付けるべき”とはいえませんが、数ある損害保険契約の中でも更新頻度の高い自動車保険に付帯するのはおすすめだといえます。
「保険金額」と「補償の重複」に注意しつつ、個人賠償特約にまだ入っていない人は自動車保険契約に付帯してはいかがでしょうか。